2016年10月12日

内閣総理大臣 安倍晋三 殿

包括宗教法人  日本キリスト改革派教会
代表役員・大会議長  小峯 明

安倍首相の伊勢神宮参拝、並びに伊勢志摩サミットにて
各国首脳を伊勢神宮に案内したことに対する抗議声明

私たち日本キリスト改革派教会は、本年1月5日と5月25日、安倍首相が行った伊勢神宮参拝と、5月26日、伊勢志摩サミットへの参加のため来日した各国首脳を、安倍首相が伊勢神宮に案内したことに対して以下の理由から強く抗議します。

1.国家権能は信教の自由と政教分離の原則に従って行使されなければなりません。

 私たち日本キリスト改革派教会は、聖書を土台として、信教の自由と政教分離の原則を近代国家の知恵として支持し、国家的為政者は神が立てられたものであると考えています。また私たちの教会の信仰告白は、神が国家を立てられ、権能を委託されたのは、あらゆる国民の諸権利を公平に守り、公共の平和を確立するためであることを明らかにしています。それ故、国家と宗教との関係においても、国家はあらゆる宗教・宗派に対して公平に、宗教儀式・布教・教育などを行う権利を認める義務があり、特定の宗教団体をあたかも国家の宗教的機関と考え、特別扱いすることは許されません。国家権能は、信教の自由と政教分離の原則に従って行使されなければなりません。

2.安倍首相の伊勢神宮参拝は憲法の政教分離原則に違反します。

 皇祖神を祭る伊勢神宮は、靖国神社とともに戦前・戦中、祭政一致の国家神道の中心的施設としての役割を果たしました。国家神道の下で個人の思想・良心・信教の自由は侵害され、人々は侵略戦争へと駆り立てられました。日本国憲法第20条の信教の自由と政教分離の原則は、そうした過ちへの反省に基づき、国家と神道(宗教)の厳格な分離を意図して設けられた規定です。したがって、国家の行政権の長である首相が、国家神道の中心的施設であった伊勢神宮に参拝することは、再び、国家が神道との特別な関係を持つことに繋がり、憲法第20条の政教分離原則に違反します。
 特に毎年年頭、公に報道がされる中で、多くの閣僚を伴って首相が参拝することは、決して「私人」としての参拝とは言えず、実質は「公式参拝」となっており、政教分離の原則に違反することは明らかです。

3.安倍首相が伊勢志摩サミットにて各国首脳を伊勢神宮の内宮で出迎え、案内したことは信教の自由と政教分離の原則に違反します。

 安倍首相は伊勢志摩サミットで各国首脳を伊勢神宮に招待するにあたり、「悠久の歴史をつむいできて、たくさんの日本人が訪れている。日本の精神性に触れてもらうには大変良い場所だ」(2015年6月5日 日本経済新聞)と語りました。そして、本年5月26日、安倍首相は伊勢志摩サミットのために来日した各国首脳を伊勢神宮の内宮の入り口で出迎え、その後、正式参拝の場所である御垣内(みかきうち)に案内しました。こうした安倍首相の行為は、一宗教法人である伊勢神宮を特別な存在として扱う行為であり、「いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない」「国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教活動もしてはならない」という憲法第20条の政教分離の原則に違反します。
 政府は、「参拝」ではなく「訪問」であり、そこで「二拝二拍手一拝」や「おはらい」をしないから、政教分離には違反しないと言っています。しかし、サミットという国際的な公的行事にあたって、首相が一宗教法人である伊勢神宮を「日本の精神性に触れてもらうには大変良い場所だ」と宣伝し、そこに各国首脳を案内することは、政府自身が伊勢神宮を特別な宗教団体であると見なし、宣伝していることに他なりません。
 愛媛玉串料(違憲)訴訟の最高裁判決は、愛媛県が靖国神社や護国神社の例大祭、みたま祭又は慰霊大祭に際して公金を支出したことに対して、「一般人に対して、県が当該特定の宗教団体を特別に支援しており右宗教団体が他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすものといわざるを得ない」と述べ、憲法20条3項、89条に違反するとしました。つまり、愛媛玉串料(違憲)訴訟の最高裁判決の中心は、靖国神社又は護国神社に対する愛媛県の行為が、「他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすもの」であるか、どうかという点にあります。したがって、最高裁判決の視点からするならば、今回の安倍首相の行為は、「参拝」ではなく「訪問」と言い換えても、直接的な宗教儀式を行わなくても、伊勢神宮が、「他の宗教団体とは異なる特別のものであるとの印象を与え、特定の宗教への関心を呼び起こすもの」であることは明らかであり、憲法第20条の政教分離の原則に明白に違反します。

 以上の理由から、私たちは安倍首相の伊勢神宮参拝、並びに伊勢志摩サミットにて各国首脳を伊勢神宮に案内したことに対して強く抗議します。私たちは改めて、政府が憲法尊重擁護義務を誠実に果たし、立憲主義と政教分離の原則に基づく政治を忠実に履行することを強く要請します。