2011年10月20日


大阪府知事            橋下 徹 殿

大阪維新の会大阪府議会議員団代表 浅田 均 殿

包括宗教法人 日本キリスト改革派教会

代表役員・大会議長 吉田 隆

大阪府「君が代」起立条例への抗議、並びに教育・職員基本条例案の撤回要請

 私たち日本キリスト改革派教会は、6月3日に「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」が大阪府議会で可決されたことに強く抗議します。さらに、9月21日に大阪維新の会が府議会に提出した「教育基本条例案」「職員基本条例案」を撤回するよう強く要請します。

1.「君が代」起立斉唱の強制は、思想・良心・信教の自由に対する侵害です。

 国民の思想・良心・信教の自由の権利規定は、近代国家の智慧です。少数者の思想・良心・信教の自由は、行政運営の世界といえども、極力尊重されなければなりません。特に「日の丸・君が代」については、国旗・国歌として法制化される過程でも、それが強制されないことが政府によって繰り返し確認されています。

 周知のように、「日の丸・君が代」は、第2次世界大戦までの歴史において天皇を現人神とする国家宗教の体制的シンボルとして用いられました。特に「君が代」は天皇を賛美し、天皇の治世の永遠性を祈願するためにつくられた歌であることは明白です。そのために、国家神道以外の諸宗教を信じる国民の信教の自由が大きく損なわれてきました。「日の丸・君が代」に対する態度は、現在でも、個々人の思想と良心、そして信仰の問題と深く関係しています。決して組織運営の規律の問題に矮小化されてはならない問題です。

 私たちキリスト者は「神のみが良心の主」であると信じています。たとえ公権力であろうと、「君が代」起立斉唱を強制することによって、個人の思想・良心・信教の自由を侵害することは許されません。日本国憲法が第19条「思想及び良心の自由」、第20条「信教の自由」を規定している理由は、そのような過去の歴史を踏まえた少数者の思想・良心・信教の自由の権利を保障するためです。

2.「君が代」起立斉唱をしない教職員を免職するという規定は、法の下の平等に反します。

  「教育基本条例案」と「職員基本条例案」の内容は多岐にわたります。しかし、両条例案の中には「君が代」起立斉唱等の職務命令に3回従わなかった教職員を免職とする規定があります。かねて橋下知事は、「ルールを守らない教師には退場してもらう」、「宗教的な考え方からできませんと言うなら、その仕事をやめるべきだ」(2011.5.26朝日新聞)、と発言しています。しかし、思想・信条の理由から「君が代」を起立斉唱できない教職員を免職することは、思想・良心・信教の自由に対する侵害であるばかりか、人種や信条などによる差別を禁じ、すべての国民の法の下の平等を定めた日本国憲法第14条の原則にも反します。

3.「教育基本条例案」は政治による教育への不当な支配です。

 教育基本法は、戦前戦中の国家主義教育への反省から、「教育は不当な支配に服することなく」行われるべきであることを定めています(第16条)。しかし今回の「教育基本条例案」の前文では、教育に民意を反映させるとの理由から、教育行政に政治が関与することが強く主張されています。また、知事が教育の目標を定めるとの規定(条例案6条2項)や、知事の命令に従わない教育委員を罷免する規定(条例案12条2項)も定めています。これは、教育内容および教育制度に政治が介入するものであり、明らかに教育基本法(第16条1)が禁止する「不当な支配」です。

 私たちキリスト者は、教育の目的が子どもたち一人一人の人格と良心を育むことにあると考えます。そのためにも政治の支配から「教育の独立」が守られる必要があります。子供たちと向き合う教職員の思想・良心・信教の自由が保障、尊重されなければなりません。また、そのことが、先の戦争の被害者である在日の児童、生徒をも含む子供たちの思想及び良心の自由、内心の自由を守ることにもつながります。
教育委員会や教職員を知事の指揮命令の下、ピラミッド型に序列化し、子供たちを一つの型にはめ込んで管理することは、決して子供たちの人格と良心を育むことにはなりません。

 以上のような理由から、私たち日本キリスト改革教会は、「君が代」起立斉唱を教職員に強制する「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」に強く抗議すると同時に、府議会に提出された「教育基本条例案」「職員基本条例案」の撤回を強く要請します。