内閣総理大臣 安倍 晋三 殿
公明党代表 山口那津男 殿
衆議院議長 大島 理森 殿
参議院議長 山崎 正昭 殿

2015年10月15日
包括宗教法人 日本キリスト改革派教会
代表役員・大会議長 小峯 明

「安保関連法案」の強行採決への抗議と同法制の廃止を求める声明

 私たち日本キリスト改革派教会は、今回、いわゆる「安保関連法案」(「平和安全法制関連二法案」)が、2015年7月16日の衆議院本会議において、さらに9月19日の参議院本会議において、多くの国民の賛同を得ることなく、つとに指摘されてきた憲法違反という問題を放置したまま、通常の国会運営手続とは著しく異なった強引な手法で、しかも委員会での採決記録もないまま、議決されたことに対し、以下の理由から、強く抗議し、違憲立法である「安保関連法制」の廃止を求めます。

1.「安保関連法制」は違憲立法です。

私たち日本キリスト改革派教会は、すでに昨年10月に「集団的自衛権行使容認の閣議決定に対する抗議声明」を出し、昨年7月1日に安倍政権が行った集団的自衛権行使容認の閣議決定に抗議し、その「解釈改憲」行為と自衛隊法や周辺事態法の一括改正の企てに対して強い反対の意を表しました。それにもかかわらず、安倍内閣および与党(自由民主党と公明党)は、今年になって「解釈改憲」に基づく10本の改正法案と新法案からなる「安保関連法案」を国会に提案しました。これらの法案は、すでに日本の大多数の憲法学者、元最高裁判事、元法制局長官をはじめ、弁護士や裁判官など、法曹界の多くが指摘しているように、集団的自衛権を行使する点において憲法前文と第九条に違反する違憲立法です。政府が合憲の法的根拠とした砂川裁判の判例も、元来その根拠たりえないことは、多くの識者の指摘を待つまでもなく自明なことです。政府は、結果として法理的な説明をいっさい放棄し、「合憲と信じる」という答弁を繰り返しながら、強引に多数決で議決しました。これは、法治国家における立憲主義の原則を著しく逸脱した行為であり、憲法第九九条で為政者に課せられている「憲法尊重擁護義務」に明確に違反します。私たちはこのような採決を認めることはできませんし、違憲立法である「安保関連法制」に従うことはできません。

2.「安保関連法制」は内容的不備が明白な欠陥法制です。

「安保関連法案」の衆参両議院の審議における答弁のやりとりの中で多くの法文上の問題が指摘され、当該諸法の立法化に対し、慎重審議の要望や廃案ないし撤回を促す批判的意見が国民各層から出されました。特に、「存立危機事態」の判断基準が「政府の総合的判断」にまかされ、無限に裁量可能な非限定法となっている点、および日本の「存立危機」にもかかわらず集団的自衛権の行使には同盟国からの要請を必要とする点など、すでに多くの法律家から当該法案の法的欠陥が指摘されています。このように、法治国家の存立基盤である法的安定性に鑑みて当該法案は法的内容の慎重な検討が必要であったにもかかわらず、政府および与党は、参議院では閣議決定を要する付帯決議はつけたものの、原則として野党の法案修正要求にはいっさい応じませんでした。さらに、異例な仕方で数の力だけで強引に議決した与党の行為は、立法府の民主主義的な運営に責任を持つ政党としてふさわしくないものであると同時に、そうしなければ立法化出来なかった欠陥法制としての「安保関連法制」の問題性を端的に物語っているといえます。

3.「安保関連法制」の必要性に対する説明責任が果たされていません。

政府は、この「安保関連法案」の議決を急ぐ理由として強調した安全保障上の緊急性について、国民の多くが納得できる充分な説明をしませんでした。日本国憲法は第九条をはじめとして集団的安全保障に関する軍事行動を想定していません。したがって、もし自衛隊がそのような軍事行動をするのであれば、「軍隊」として行動するための法的整備とその規制に関わる憲法の改正が必要です。それをしないまま、集団的自衛権を行使する通常法を制定することは、法治国家である日本の法的安定性を破壊することにつながります。もし政府が法的安定性を犠牲にしてまでも、安全保障上、安保関連法制が緊急に必要だと考えるならば、まずもって国民全体のコンセンサスを得るために、安全保障上の適切な状況説明と説得力を持つ正当な政策展望の説明が行われなければなりません。しかし、今回、政府および与党は、国民に対し、最後まで説得的かつ適切な説明を行いませんでした。実際、当初安倍首相が行った絵入りパネル説明では集団的自衛権行使の必須要件としていた邦人乗船要件が、後の答弁では実は必須ではなかったと説明してしまうなど、その説明の仕方は不確実、不誠実、不明確なものでした。各種世論調査が示すように、国民の多くは政府の説明に納得しておらず、説明責任は果たされていません。

 私たちは、日本が戦後70年間にわたり、現在の日本国憲法の理念をもって築き上げてきた「戦争をしない国」としての歩みを強く支持します。それは、私たちの教会が、戦時下において、「聖戦の名の下に遂行された戦争の不当性とりわけ隣人諸国とその兄弟教会への不当な侵害に警告する見張りの務めを果たし得ず、かえって戦争に協力する罪を犯し」たことを、罪責として告白しているからです。また、全世界の教会と共に、終末に完成された姿として現れる神の国をめざし、「地の塩、世の光」として和解と平和の実現のために歩むことを決意しているからです。日本が憲法第九条により戦争をしない国であるのは、一国平和主義に立っているからではなく、そもそも集団的安全保障体制を形成する国際社会が掲げた不戦の願いに立っているからです。そうであるからこそ、私たちは、憲法に違反する集団的自衛権の行使を解釈改憲によって強引に「合憲」化し、憲法に違反する「安保関連法案」を国民的コンセンサスを欠いた強引な手法で立法化した行為を、とうてい承認出来ないのです。このような立法措置は、安倍政権によって行われてきた特定秘密保護法の強行、内閣権限の濫用、マスコミへの介入、閣議決定による解釈改憲、国会審議の形骸化、無効な採決の強行など一連の行政および国会対応の行動と分かちがたくむすびついたものであり、為政者に委ねられた権能の目的と限界を大きく逸脱したものです。

 私たちは以上の理由から、「安保関連法案」の強行採決に強く抗議するとともに、違憲立法である「安保関連法制」をすみやかに廃止し、立憲主義と憲法の平和主義の原則に則って国政を司るよう強く求めます。

 「新しい地には主を知る知識が満ち、正義が支配し、平和は大河のように流れ、国は国に向かって剣をあげず、もはや戦いはありません。あらゆる国民、種族、民族、言葉の違う民の中から数えきれないほどの大群衆が、神に仕えるために自分たちの栄光と誉を携えて新しいエルサレムにやってきます」
(日本キリスト改革派教会「終末の希望についての信仰の宣言」より)